卒業制作に向けて

 この夏私は宮崎から東京まで自転車で旅をしました。8日間の1000キロ近い道のりは今でも断片的にではありますが鮮明な記憶として残っています。自転車をこぎながら、私は東京にたどり着く一心で写真を撮る余裕もなく意識的に周囲を観察することもあまりしていませんでした。しかし途中の道、出会った人、風景は確かに自分の体の中に蓄積されています。私は短い時間の中で通り過ぎていった景色に原風景を見たのではないかと思います。ここで言う原風景とは、岩田慶治の著書「日本人の原風景」における「原風景とは、個性的に内面化された風景である。」という言葉に定義を置いています。初めて訪れた場所であり、そこに滞在することがなかった場所であっても、その場所は確かに自分の中に存在しています。この夏の自転車の旅を“原風景を探す旅”であったと位置づけ、この経験、そして見てきた風景が色褪せることのないように表現に起こしておきたいと思いました。
 旅の途中何度か足を止めて風景を眺め、また描き留めようと手帳にボールペンを殴り描きすることもりました。しかし長い道のりの中、多くの時間は初めて訪れる場所に対する緊張感や自転車をこいでいる疲労感、また先に待ち構える峠越えを思い心が折れそうになるといった余裕のない状態にあり、このような状況の積み重ねが、私の中で旅の経験を今でも現実のものにしてくれています。
 このような自分とは切っても切りはなせない風景とは誰にでもあると思います。私が表現することで見る人が原風景を感じるようなものはつくれないでしょうか。今の時点では数少ないスケッチや言葉によってしか伝えることはできませんが、最終的には建築学科の卒業制作として、空間的な表現に起こしたいと思います。建築という表現は直接的に風景を造る行為であるからこそ、自分の原風景を知ることが必要不可欠だと考えています。



0 コメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。